ばいきんまんのクリスマス

















その日、ばいきんまんはいつもよりイライラしているようだった。

「何がクリスマスだ。そんなモノ、オレ様がメチャクチャにしてやるのだ」

町は綺麗に飾られ、ケーキやプレゼントを待つ子供達の楽しそうな声が絶え間なく聞こえる。おそらく、夜には温かな御馳走がケーキと共に食卓に並び、明日の朝には枕元にプレゼントが置かれているのだろう。しかし、彼には・・・そんなクリスマスとは縁のないばいきんまん。ばいきんまんは、羨ましかったのだろう。

「ドキンちゃんはしょくぱんまんのヤツにプレゼントするって出かけたままだし、今年はオレ様1人でやらなきゃいけないのだ・・・」

毎年のように訪れるこの日を、ドキンやかびるんるん達と壊し、奪ってきた。
今回は1人でそれをやるために、念入りに作戦を練っている。 まずは、子供達に配られるプレゼントを全ていただくことを考えていた。

「サンタクロースのヤツから直接奪っても、その後にアンパンマンが・・・・・・」

過去に多くの失敗を重ねてきた。だからこそ、綿密な計画が必要になる。

「サンタクロースが配り終わった後、1つ1つ、こっそり取りに・・・いや、そんな面倒なやり方は、オレ様には似合わないのだ。もっと豪快に、効率よく・・・」

すっかり思案にふけっていたばいきんまんは、その気配に気付くことができなかった。



「何してるの?」

不意にかけられた言葉に、ビクッと振り返ったばいきんまん。

「な・・・?!アンパンマン!!キサマどうしてここに・・・」

この部屋に誰かがやってきたことに気付けなかったことに、ばいきんまんは少々(いや、かなり)動揺していた。よりにもよって、アンパンマンの気配に気付けなかったのだ。

「どうしてって、・・・キミに逢いに来たんだよ」

ばいきんまんの動揺を知ってか知らずか・・・アンパンマンは微笑んでそこにいた。

「キミが出かけてしまう前に、これを渡したくて」

それは、リボンのかかった大きな包み。まるで、ばいきんまんが憧れていたクリスマスプレゼントのようだった。
思わず、素直にそれを受け取ってしまったばいきんまん。彼は、その包みを乱暴に破り開けた。

「これは・・・」

中身はモスグリーンのダウンジャケット。サイズはばいきんまんにぴったり。
驚いた様子のばいきんまんに、とても嬉しそうなアンパンマン。
「今日は一段と冷え込むからね。  それ、キミに似合うと思うよ」

今にも雪が降り出しそうな寒い日。これからばいきんまんが出かけることも、その目的も、勿論分かっているアンパンマン。心が冷え切っている今日の彼に、せめて何か温かくなるものを渡したかったのだろう。
幸せそうな人々を羨ましがって、それを壊すことしか知らないばいきんまんに。

「でも・・・・・・パトロールが終わってパン工場の方も一段落ついたら、ケーキを持って、また来るね。だから、待っててくれると嬉しいなぁ」

「フンッ!オ、オレ様が・・・どうしてキサマを・・・」

「それでも・・・
 それでも、僕は、また来るから。じゃあ、また後でね」

言いたいことを一方的に言って、アンパンマンは帰っていった。 クリスマスイブのパン工場は、毎年大忙しだったはず。それなのに、その後にここに来るというアンパンマン。それも、ばいきんまんが今まで手にすることの出来なかったものをくれた・・・
彼を思い、彼のためだけに用意されたクリスマスプレゼント。
温かい思いの詰まったそれを、広げてみる。

「こんな物・・・
 アンパンマンから貰った服なんか着て、出かけたりしないのだ」

さっきまでのイライラは無くなり、どこか嬉しそうにもみえる。 ばいきんまんは、外出をやめた。







その後、約束どおりバイキン城を訪れたアンパンマン。
ケーキの他に、温かな御馳走も持ってきた。

「これは、メロンパンナちゃんから」

そう言って渡されたのは、手編みのマフラーだった。

「オレ様、こんな物貰っても、嬉しくなんか・・・」

フイッと横を向き、嬉しそうな顔を隠そうとするばいきんまん。そんなばいきんまんを見るアンパンマンは、もっと嬉しそうだった。

「ほら、料理が冷めないうちに食べよう」

アンパンマンは料理を手際よくテーブルに並べ、その中央にケーキを置いた。






彼らのクリスマスは、これからだった。



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